信濃毎日新聞に連載 第8回 ケータイの落とし穴−いま子どもたちの世界は

信濃毎日新聞毎週月曜日に連載
第8回 ケータイの落とし穴−いま子どもたちの世界は

秘密を作ることの魅惑
下田 博次    
 
未知の出会いが手軽に・・・
 昨年から私は、群馬県内の高校や中学校でインターネットに接続できる携帯電話の利用問題について、子供達に直接話しかけるよう努力している。学校側から「IT特別授業」と呼ばれているその試みは、私にとってはちょっとした取材のチャンスでもある。   
例えばそうしたIT特別授業が行われた県立高校のひとつで、会場設定のお手伝いをしてくれた高校生達に、思いつきでこんな質問をしたことがある。「君達がいま使っている携帯電話が音声通話機能だけに限定されたら使い続ける?」するとその場の12人の生徒のうち「使い続ける」と答えた生徒は1人だけで、あとの生徒は「そんなことになったら困る」とか「使うのを止める」と答えた。彼らは、電子メールの送受信などインターネット機能なしの携帯電話には、価値が無いとみているようだ。それだから携帯電話利用には、お金がかかることも承知している。
 ちなみにそのときの生徒達は、「使い続ける」と答えた一人の生徒を除き、全員が携帯電話の料金支払いは月に5千円以上と答えていて、その料金支払いのためにアルバイトをしている生徒が4人もいた。月間5千円という数字を出したのは、その前日にたまたま同じ年頃の高校生の子供を持つ母親から「携帯の利用は、最大でも5千円までなら許す。できれば3千円のレベルで抑えて欲しい」という親の気持ちを聞いていたからだ。これを生徒に話したところ、彼らは「そのお母さんは、わかっていない。3千円なんて、携帯の魅力を知らない」と言い切ったのだ。
携帯の魅力とは何か。生徒の一人が、こんなことを言った。「便利というのと、魅力とは違う。魅力と言う意味は面白いということだ」
 これを聞いて私は妙に納得してしまった。親達は「帰宅の遅いときの連絡に便利」などと即時通話機能を評価しているのだが、今どきの子供のほうは携帯電話に「新しい遊びができるメディア」としての面白味を認めているのだ。では携帯電話の遊びの機能とは何か。最新のカメラ付き携帯電話機には、プリクラ型的あるいはフアミコン・ゲーム機的な遊びの要素がとりこまれてきたし、本を読んだりニュースも取れるなど旧来のマスメディア機能もコンパクトに収められている。もちろん禁断の画像を簡単に送受することもできる。ようするにマルチメディアのネットワーク機能が新たな遊びのかたちを生み出しているのだ。
それらのメニューの他には、メル友など未知の出会いを手軽に広げることができるというメディアの魅力もある。たとえば一人の女子高生が、こんな話をしてくれた。
「失恋したので、慰めてくれる友達をさがしていたら携帯で見つかった。同級生の男の子では物足りないので、年上の男性がいいなと思っていたらサラリーマンが友達になってくれた。」彼女は「その彼とは、1年ちょっとの付き合いで別れた」と言っていたが、その間にメル友の年上男性からお小使いをもらっていたらしい。そうなると結局は援助交際の関係ということになるのだろうか。
 それはともかく女子高生にとって、このようなメル友の存在は、勿論のこと親には絶対秘密である。そして秘密を作るということは、思春期の子供にとっての魅惑でもある。言い換えれば、携帯電話は、秘密の人間関係を簡単につくることができるメディアなのだ。
昨今いわゆる自殺系の出会いサイトで心中志望の大人達と繋がっていた女子高生のニュースが注目を集めたが、これも現代の子供達が作る秘密の人間関係のサンプルのひとつである。
信濃毎日新聞2003年3月3日(月曜日)
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