信濃毎日新聞に連載 第10回 ケータイの落とし穴−いま子どもたちの世界は
| 信濃毎日新聞毎週月曜日に連載 第10回 ケータイの落とし穴−いま子どもたちの世界は 危険に引き込むネットの力 |
|
| 下田 博次 | |
| 相談されぬ大人も問題 | |
| 今年に入って三重県、埼玉県、山梨県そして徳島県と各地で若い男女による集団自殺のニュースが相次いでいる。アパートであるいは乗用車の中で、三人、四人と連れ立って自殺、あるいは自殺未遂におよんだ彼らには、インターネットや携帯電話を使って知り合い集まったという共通性がある。いわゆる自殺系サイトの利用だ。 こうした中、前回紹介した高校や中学での「インターネット、携帯利用に関する特別授業」で私が、「インターネットというメディアは、これまでのどのメディアよりも、人と人を結びつける強い力を持っている。それは携帯電話でもおなじだ」と説明すると、子供たちは大きくうなずくようになってきた。ネット上の自殺系サイトあるいは自殺願望者サイトには、三十代、二十代の男女ばかりか、十代の中高生も大きな関心を持っているようだ。 若者たちのサイトへの関心の持ち方、利用の仕方は、結構多様である。死にたいと思う気持ちから確実な実行方法を探す目的でアクセスする者もいれば、自分と同様の考えに取り付かれている仲間を探したいという者もいる。そして仲間を見つけて実行への道を辿(たど)るケースもあれば、死にたい気持ちや理由を話し合っているうちに自殺願望が消えるケースもある。 主体的に自殺願望者との出会いを求めるケースばかりではない。ネットサーフしているうちに偶然に自殺系サイトに入ってしまい、心が引き込まれたという若者もいる。今は大学生のその彼は、高校時代の自分の部屋でネットサーフをしていて自殺系サイトに遭遇し、「怖いをした」と、次のように話してくれた。 「自分の学校は進学校だったが、あるとき何のために勉強するのかばかばかしくなった。親とか教師の存在も自分には疎ましくなって、おまけに好きな女性も出来て苛(いら)ついていた。そんなとき偶然に自殺願望者の集まるサイトに入り込んでしまった。怖かったですね。自殺する事は苦しい事ではないとか、楽に死ねるとか、親や先生に話してもこの怖さはわからない」 元高校生ばかりではない。私は現役の女子高生からも自殺サイト怖さを聞いている。彼女の場合、男子生徒との性的関係が学校で明るみにされ、それが原因で自殺願望が高まってサイトにアクセスしたという。そのとき彼女が、怖いと思ったのは「自分と同じような考えの人がいて、話していると妙に共感できてしまうこと。例えば、この世の中はまじめに生きる価値はなおなど、結構説得力があった」ことだ。 彼女は自殺願望者のいない別の出会いサイトで親にも言えない本音をぶつけられるメル友をつくり、そのことで「死ぬ誘惑に負けないでいられた」という。 ネットでの出会いでは、お互いに話しをして気持ちを分かり合ったり支え合ったり出来るが、そのメディアの魅力が裏目に出ると「危険に引き込む力になる」。それを、この女子高生も大学生も事後に整理できた。自殺サイトでの出会いと、その後のメール交信は、自殺肯定のメッセージを、活字で読んで同感するのとは次元が違い、双方向のコミュニケーションを実現する。 問題は、このようなメディアの機能理解も含め、子供たちから「相談してもだめだ」と思われている情報化社会の親、大人の存在である。 |
|
| 信濃毎日新聞2003年3月24日(月曜日) | |
| 掲載記事・写真の無断転載を禁じます | |
| 意見、感想等、お寄せください。netizen@abeam.ocn.ne.jp または送信先:Fax 027-260-5035 |
![]() |
![]() |
![]() |