信濃毎日新聞に連載 第17回 ケータイの落とし穴−いま子どもたちの世界は

信濃毎日新聞毎週月曜日に連載
第17回 ケータイの落とし穴−いま子どもたちの世界は

「だましだまされる」ネット
下田 博次    
 
虚構性の魅力」を知り
 米国ではインターネットのポルノ・サイトなど欲望刺激型の有害情報(有害なコンテンツの問題)とともに、「繋(つな)げ、関係づける力」(コンタクトの問題)にも注目が集まっている。コンタクトの機能が、良いほうに働けば善意の人間関係が作られる。反対に悪く働くと、悪意の関係や悲劇的な関係を生み出す。
 米国では「あなたのお子さんをネットから変質者が狙っています。子供が編(だま)されないよう、守り方を勉強しましょう」というテレビ番組も放送されている。大人が子供を装ってネット上で少年少女に近づき、おびき出して被害を与えるケースに危機感が高まっているからだ。
 私は、中高生らとともに制作していたティーンズ・エクスプレスというFM放送番組の制作会議で、「目茶でもそうした放送番組が作られるといいね。インターネットは嘘(うそ)が多いから、騙されないようにと十代に注意を呼びかけてみては」と言ったところ、高校生や大学生から「先生、そんなこととっくに知ってるよ」と言われてしまった。彼らに言わせれば、「知らないのは大人の方では」と、こんなことを言う。
 「先生、ネカマって知ってる?」 「何?それ」「ネット上でオカマになりすまして、オヤジたちをからかうことだよ。インターネットは騙しの世界なんだ。だから騙されるほうが悪いし、騙されたら騙し返せばいいんだ」
 確かに現実にも、そうした事件は起きている。ネットで男の子が女子高生を装って中高年男性に援助交際の誘いをかけ、都合のいい場所におびき出して恐喝する。この場合は、子供の万が一枚上(?)なのだ。大人を飛び越して、携帯電話からインターネットの世界にー斉に踏み込んだ日本の子供たちは、今や、われわれ大人以上にネットの虚構性を知っていると考えるべきではないのか。いや正確には「ネットの虚構性の魅力」を知っているというべきだろう。
 それが証拠に彼らはこんなこと言う。
 「インターネッ†では変身ができる。名前ばかりか年齢も性別も偽ることができる。だから本音で会話もできるし、本音が出せる世界。うまくいけば本当の友達も探せるし、社会の本当の姿もわかる」
 ようするに子供たちは、ネットから世界の実相がわかるし、社会というものを教える大人の本性も見抜くことができる、と考えている。実際に「偉そうなふりをしても、本音のところでは大人も、こんな程度かとわかる。エロいサイトやグロいサイトを見ていると、大人ってここまでやらないと満足しないものかということもわかる」というのだ。
 彼らはインターネットは人間や社会の実相を知るメディアだと気付きはじめた。だがそれは社会や人間の一面に過ぎない。そのことを教えなくてはならない。確かにインターネットというメディアには、人を騙したり、騙されたりの情報環境が作られているのだ。しかしその中で下手に振舞うとけがをする。そのことも教えなくてはならない。
 と思う一方、果たしてネカマの誘いに乗ってノコノコと出かける日本の中高年世代に、その能力や資質があるのか、という疑問も湧いてくる。
信濃毎日新聞2003年5月26日(月曜日)
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