信濃毎日新聞に連載 第18回 ケータイの落とし穴−いま子どもたちの世界は

信濃毎日新聞毎週月曜日に連載
第18回 ケータイの落とし穴−いま子どもたちの世界は

冒険の可能性を作るメディア
下田 博次    
 
自己決定への情報不足
 高機能化しファッション化する携帯電話。ここまでくると、子供たちはもう手離せないだろう。そう思いながらも、昨年はあれこれ携帯ディベートを仕掛けてみた。今年三月に終わった十代参加型ラジオ番組「ティーンズ.・エクスプレス」もそのひとつだった。
 議論が好きで携帯電話を持たないという女子高生と、ケータイを離せない高校・短大生という組み合わせで、「ケ一夕イは必要か?」というトークをやってみた。結果は、ケ一夕イ愛好組の方が分が悪かった。予想通りで、さして面白昧も無い。むしろ後で、出前講義に行
った高校の生徒たち(男女)から聞いた番組の感想や、何気ない対話の方に興味が湧(わ)いた。例えばこんな会話である。

 「最初から結果が見えてるよな」 
 「そうそう、ラジオや人前では正論に負けるよ」
 「でも使ってなくて理屈だけ言われちゃ納得できないよ。使ったうえで言ってほしい」 
 「そう、説得力ないよ。理屈じゃなくて携帯使っていけば良さがわかる」
 「いつでも、どこでもすぐにコミュニケーションがとれる。暇つぶしもできる」
 「携帯で話が盛り上がれる。仲良くなれる。友達は大切だからね」
 ー「それって、ただ便利だとか面白いというだけじゃ?」と私。
 「いや可能性がある。知らない友達も作れる。メル友を作れる。新しい出会いの可能性をひろげられる」
 ー「メル友作りたがる人って、身近に友達作るのが下手なのでは?」と私。
 「違う。上手な人でもメル友は別。身近な友達と期待するものが違う。そこが可能性」
 「そう。自分を本当に理解してくれる人がいるかもしれない。そんな人と知り合うことができそうだ、という意味」
 ー「君たちのことを本当に知っている身近な人の方が、相談に乗ってもらえるはずだけど」と私。
 「いろいろしがらみがあってだめです。自分がどんな人間か、これまでの付き合いでわかっているし。最初から色眼鏡でみられることもあるし、して無理してしまうしね」
 「知らない友達への期待がある。周りの男子生徒は子供っぽくて面白くない。大人の男の人と付き合いたい。現実にそうやってやさしい大人を見つけた子もいる」
 「違う学校の友達が欲しい。同年代でも、すてきな男の子がどこかにいるかもしれない」
 「メル友は、ダメだったらすぐに別れることができる。関係を即座に切れる。新しい友達関係だよ」
 「しかし、突然関係を切ったら相手も怒り出したり、脅されたりすることもあるのでは?」
 「いや、そんなもんだとわりきるよ。そのときは、そのとき」
 ー「君たちは実際に会ったこともない友達や、簡単に会えない友達に都合のいい期待だけしていないか? 会ってみたら誤解ということになりやすいのでは?」と私。
 「だから面白い。遠いところのよく分からない人に会いに出かけるというのはロマンだよ」
 
 この種のやりとりで、私は高校生らのいう「可能性」の意味が少しわかってきた。ケ一夕イは、冒険の可能性を作ることができるメディアなのだ。もちろん彼らはその冒険にリスクも感じてはいる。しかしそれは大人の私の目からすれば、危なっかしく思える。深く考えずに行動するし、リスクをとるための、つまり自己決定に必要な情報や経験に乏しい。
信濃毎日新聞2003年6月2日(月曜日)
掲載記事・写真の無断転載を禁じます
意見、感想等、お寄せください。netizen@abeam.ocn.ne.jp
または送信先:Fax 027-260-5035
第19回「非日常・解放のチャンネル」 へ ねちずん大学トップページへ 第17回「だましだまされる」ネット へ