信濃毎日新聞に連載 第19回 ケータイの落とし穴−いま子どもたちの世界は

信濃毎日新聞毎週月曜日に連載
第19回 ケータイの落とし穴−いま子どもたちの世界は

非日常・解放のチャンネル
下田 博次    
 
幼い判断力に基づき行動
 出会い系サイトで18歳未満の子供達が金銭目当ての「援助交際相手」を募る行為を罰する目的の法案(出会い系サイト被害防止法案)が、さきごろ参議院本会議で可決,成立した。罰則は、年齢,性別を問わず一律で百万円以下の罰金というもので、これまで被害者とされてきた少女達をも罰するのが目的だ。言うまでもないことだが、この法案成立の背景には携帯電話の普及にともない急増した児童売買春事件がある。
 それにしても奇妙な法律だ。以前この連載でも述べたが、私は売春メッセージを発信する未成年者を被害者として扱う従来のやりかたには不満だった。「児童売春は悪い。大人を誘ったりしたら、君達もかわいそうな被害者ではすまないよ」と子供たちに教えねばならない。しかし子供に厳罰を科すのは反対で、訓告あるいは説諭でよい。厳罰にすべきは少女を買う大人と保護者のほうである。特に「うちの子は被害者だから」といって済ませる親を処罰すべきだと、私は思う。
 そういう考えからすれば、この法律は筋が違う。そればかりでなく、実効性が無いものになるのではないのか。インターネットの世界を知っている者なら、表現など書き込み方を少し変えたり、隠語、符牒を使うなどで監視の網をすり抜けられる可能性が高いと思うはずだ。なにより、この法律で厳罰になると知った子供達は、これまでのように素直に売春の実態を説明しなくなるだろうし、それで実質的に得をするのは少女達の性を買う大人、オジサンのほうだろう。
 それにしても、よく考えれば、とんでもない時代ではないか。小中学生など幼い子供たちの売春行為を可能にするインターネット,ケイタイというメディアの普及には当惑するほかない。前回、「ケータイには可能性がある」という子供達の声を紹介した。確かに、子供たちはこれまで出来ないことをするようになった。これを「ケイタイの可能性」というのなら、悪い可能性が開かれたことになる。
 果たして、この子供達の手のなかに握られてしまつたケータイで、彼らが感動したり賢くなったりするような「良い可能性」が開かれていると言えるだろうか。
 さしあたっての問題は、子供達が今のような危険な玩具の可能性を追求する過程で生じるリスクを、知らないことである。
 例えば、中学生のときに援助交際していたという女子高生達が、FM群馬のティーンズ・エクスプレスという番組に出演して、こんなことを言っている。
 「あのときは何も考えていなかったけれど、私達は今考えると危ないことをしていたんだなあ、と思う。性病にも暴力にも会わないですんでラッキーだった」
 ついでに言えば、彼女らは「親にばれなかった」こともラッキーのひとつに挙げている。
 ラッキーだったというこの少女は高校に入ってから風俗のアルバイトをするようになった。これもひと昔なら考えられなかつた現実だ。もう大人は誰も驚かなくなつたのか。そして、このような実態のなかで若者達のエイズや10代の性病がひろがっていく・・・・。
 私は、少女の「親に知られないで援交できる」という発言を私は重視する。子供達は、親に知られることなくリスキーな冒険ができる非日常、解放のチャンネルを使いこなし、幼い自己判断に基づく行動をしている。われわれは、その彼らを罰するだけで大人の役割を果たしたと言えるのだろうか。
信濃毎日新聞2003年6月16日(月曜日)
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