信濃毎日新聞に連載 第21回 ケータイの落とし穴−いま子どもたちの世界は

信濃毎日新聞毎週月曜日に連載
第21回 ケータイの落とし穴−いま子どもたちの世界は

学校職場への悪影響
下田 博次    
 
始まった教師らの模索
 現在、日本の高校では、携帯電話の校内持ち込みを禁止するなど何らかの規制を設けている学校と、特に規制無しという学校が半々のようだ。そうしたなかで昨年十一月、全国の普通科高等学校長会の生徒指導研究会が、携帯電話問題について「学校生活に悪影響を及ぼしているとする高校が64・2%」という調査結果を発表した。
 悪影響の内容は、授業中にメールの受発信をするなど一種の授業妨害で、「人間関係が広まった」など前向きの評価は7・9%にとどまった。この悪影響のレベルは、おそらく学校により差があるのだろうが、高校の現場で起きていることをはじめて公にした点で注目された。
 私の研究室への高校からの問い合わせや講演依頼は、この後から少しずつ増加してきた。またわれわれのホームページ(ねちずん村)を通じての講演やセミナーの依頼も徐々にふえてきて、インストラクターたちも対応に追われはじめた。高校だけではない。携帯電話利用の急速な低年齢化により、今や中学校でも問題意識を高めはじめたようで、中学校の先生たちからも講演依頼がくるようになった。
 といってもアクセスしてくるのはまだ少数の中学である。それも組織的対応ではない。全体として言えば、問題意識や危機意識の高い個人が動いている。最近の傾向として、情報教育担当の教師に加えて、保健や家庭科など生徒の健康や生活指導にあたる教師からの問い合わせや講演依頼が目立ってきた。このような動きの背景には、十代の性感染症やエイズの広がりに対する危機感もあるようだ。
 事実、「ケ一夕イ利用の問題に絡めて性の問題も子供たちに話してやってほしい」と言われて、とまどうことがある。私はそのほうの専門家ではない。しかし現実問題として援助交際の社会現象とか性の解放を煽(あお)るように伝えるマスコミの存在がある。そうした情報環境のなかで子供たちの複数あるいは不特定多数との性交渉やその結果としての性感染症の広がりがあり、その背後にコンタクト機能をもつケ一夕イというメディアの力が働いている。それが現実なのだ。
 ともあれ高校の場合、子供たちの携帯利用問題に直面し危機感を持った現場の教師やPTAの役員が、まず動く。そのうえで校長も動く、というパターンだが、中学校になると個々の教師の動きが高校より難しくなるようだ。中学校は、建前として高校以上に携帯の持ち込みを厳しくしている。原則禁止なのである。その建前が強くて「授業で教えたくてもできない」という教師の声を再三聞いた。群馬県の中核都市の中学校では、すでに50%もの生徒が携帯電話を持っているにもかかわらずだ。そうしたなかで中学校でも、なんとか対応しようと模索がはじまっている。
 模索と言えば、講演やセミナーを頼まれるわれわれのほうも、手探りが続いている。本音をいえば、インターネットに接続した携帯電話の影の問題を直接子供たちに教える場合、年齢的に中学三年くらいが限界かなと思う。例えば有害情報の判断にしても、その善しあしを押し付けるのではなく、子供たちが主体的に考え判断力を高めていけるようにサポートするという立場に立つ限り、相手方に一定の社会的常識や知識を求めたい。
 しかし今や、高性能ケ一夕イのユーザーは小学生にまで下りているのだ。
信濃毎日新聞2003年6月30日(月曜日)
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